1. ブリッジSEとは

ブリッジSE（Bridge System Engineer）とは、日本と海外の開発チームを「橋渡し」する役割を担うエンジニアです。オフショア開発が普及する中、日本の要件を理解し、文化・言語の壁を越えて正しく現地の開発チームに伝達することが求められます。

主な業務内容：

・日本企業の要件・仕様の理解と翻訳

・海外開発チームとの進捗確認・品質管理

・日本文化やビジネスマナーの理解促進

・技術面での調整やリスク管理

ブリッジSEには、日本語能力（N2以上が目安）、ITの基本知識、コミュニケーション能力の3つが必須です。まさに「技術」と「語学」と「人間力」を兼ね備えたハイブリッド人材です。

2. ベトナムにおけるブリッジSE不足の現状

現在、ベトナムではブリッジSEの不足が深刻な課題となっています。

・日本との開発案件は年々増加

・一方で日本語が話せるIT人材はごく少数

・ベテランのブリッジSEは引く手あまたで、転職が絶えない

・若手を育てる体制もまだ未成熟

オフショア案件が増加している中、企業側では「案件はあるのに人材がいない」というジレンマが広がっています。

3. ブリッジSE不足の原因

・テクノロジー産業の力強い成長

ベトナムのIT業界は、年率15〜20%で成長しており、人材需要が爆発的に拡大しています。これはポジティブな傾向ですが、人材供給が追いつかないという課題も同時に浮き彫りになっています。

・要求される特定スキル

ブリッジSEは、単にプログラマーではありません。日本語＋技術＋交渉力という3つのスキルの掛け合わせが求められるため、育成にも時間がかかります。

多くの候補者は「日本語は話せるがIT経験がない」「ITは得意だが日本語が苦手」といったケースが多く、完全なブリッジSE人材は希少です。

・ブリッジSE研修および人材育成の不足

現地大学や職業訓練校では、プログラミング中心のカリキュラムが多く、ブリッジSEに特化した教育はほとんど存在しません。企業側も研修に十分な時間や予算をかけられず、「即戦力人材」の獲得競争に頼りがちです。

・激しい競争

日本企業だけでなく、欧米・韓国・シンガポール企業もベトナム人材に注目しており、特に日本語ができる人材はあらゆる業界で高評価。これにより給与相場は上昇し、人材の確保がさらに困難になっています。

4. ブリッジSE不足の影響

・進捗の遅れとプロジェクトコストの増加

仕様の伝達ミス、理解の齟齬、レビュー不足によって手戻りが多発。スケジュール遅延、コスト超過という悪循環が生じます。

・競争力の低下とビジネス機会の損失

他社よりも早く製品を出せなければ、市場の機会を失う可能性も。特にスタートアップやDXプロジェクトにおいては、スピードが命です。

・仕事の品質と効率への影響

ブリッジSE不在のままプロジェクトを進めると、仕様解釈の違いによる品質低下や「やり直し」のリスクが高まります。

・従業員のストレスと維持困難

限られたブリッジSEに業務が集中し、過労や精神的ストレスが蓄積。結果として離職率が高まり、さらに人材不足が進行するという悪循環。

・投資誘致への影響と経済成長へのリスク

日本企業にとって、「人材がいない国」に投資することは大きなリスクです。ブリッジSE不足は国家レベルの成長戦略にも影響を与えます。

5. ベトナムのブリッジSE不足に対する解決策

研修機関の取り組み

研修とスキル開発の強化

・日本語IT人材向けのカリキュラム整備

・IT企業と共同開発した現場密着型研修

・オンライン教育・eラーニングとの連携

関係者間の連携強化

・大学・企業・政府の三者連携モデル

・インターンや企業実習を通じた実務教育

テクノロジー企業の役割

インターンシップ・OJT制度の強化

・若手人材に実際のプロジェクト経験を積ませる

・日本人PMやSEとのペア教育で現場感覚を育成

労働環境と福利厚生の向上

・残業の抑制、柔軟な働き方の導入

・メンタルケアやキャリアパスの明確化

政府の支援策

政府支援の拡充

・日本語・IT分野の奨学金提供

・国家資格としてのブリッジSE認定制度の検討

国際的な学習と交流の促進

・日本への短期派遣研修制度

・大学間の交換留学や企業連携プログラムの整備

ブリッジSEは、異なる国・文化・言語をつなぐ存在として、グローバルな開発現場において極めて重要な役割を担っています。特にベトナムでは、IT産業の成長とともにブリッジSE不足が加速しており、それに対する対策は急務です。教育の質の向上、企業内育成の強化、そして政府の支援拡充が三位一体となって取り組むことで、長期的な解決が期待できます。持続可能なオフショア開発の未来のためにも、今こそブリッジSEという職種に対する理解と投資が必要です。