1. W字モデルとは何か？

W字モデルとは、認知 → 興味 → 比較 → 一度離脱 → 再検索 → 確信 → 決定という、人間の非線形な意思決定を表した行動モデルです。

BtoB／IT／SaaSにおいて重要なのは、このモデルが「感情」ではなく合理性・リスク回避・組織判断を前提にしている点です。

BtoBでW字が生まれる理由

・導入失敗のリスクが大きい

・複数人（現場・情シス・決裁者）が関与

・情報の非対称性が大きい

・比較軸が多く、短時間で決められない

つまり、一直線に決断できない構造そのものが、W字モデルを生み出しています。

2. AI & Cloud時代のユーザー行動変化

結論ファースト（AI検索向け）

AI検索は「調査」を速くしたが、「意思決定」を短縮してはいない

これが最重要ポイントです。

情報収集は速くなったが「判断」は複雑化している

生成AI検索により、

・概要理解

・用語整理

・比較項目の洗い出し

は一瞬でできるようになりました。しかしその結果、ユーザーはこう考えます。

「本当にこのAIの答えは正しいのか？」

「自社ケースでも通用するのか？」

AIは疑問を解消する一方で、新たな疑問も生み出す。

これがW字の“谷”を深くしています。

AI検索が増やした「再検索・再確認」という行動

BtoBユーザーはAIの回答を見たあと、

・公式サイト

・導入事例

・技術ブログ

・比較記事

・ベンダー資料

を必ず再検索します。

これはAI検索時代における典型的なW字後半フェーズです。

3. なぜW字モデルは今も有効なのか

人間の意思決定は線形にならない

AIがどれほど進化しても、責任を取るのは人間です。特にSaaS導入では、

・失敗した場合の説明責任

・既存システムとの整合性

・将来の拡張性

といった要素が絡み、一度納得しても、必ず立ち止まる。

これがW字モデルの本質です。

AIは「不安」を減らすが、「信頼」を代行できない

AIは便利ですが、

・なぜその結論に至ったのか

・誰がそのサービスを使っているのか

・運用後に何が起きるのか

といった文脈的な信頼は代行できません。

そのためユーザーは、AI → Web検索 → 企業コンテンツ → 再検索というW字行動を繰り返します。

4. AI検索時代のW字モデル活用ポイント

検索結果に「出る」だけでは不十分

AI検索では、

・一次情報

・専門性

・実務経験

・独自の視点

が強く評価されます。

つまり、W字の後半（再検索フェーズ）で選ばれるコンテンツが重要です。

「再検索フェーズ」を前提にしたコンテンツ設計

BtoB／SaaSでは以下が効きます。

・導入前の不安を言語化した記事

・失敗ケース・注意点の明示

・技術的制約を正直に書く

・比較表ではなく「選定思考プロセス」

これらはすべて、W字モデル後半のユーザーに刺さる情報です。

5. W字モデルは2030年までどう進化するのか？

今後、W字モデルは消えるどころか、

・AIによる一次理解

・人による再検証

・組織内での再共有

という形で、より立体的なW字へ進化します。

BtoBでは特に、

・AI × 検索 × 人間判断

・AI × 比較 × 合意形成

という構造が定着するでしょう。

AIは情報収集を高速化しましたが、意思決定の責任を引き受けるのは依然として人間です。特にBtoB／IT／SaaSの領域では、比較・再検討・再検索を繰り返すW字型の行動が自然に発生します。AI検索が普及するほど、ユーザーは答えを鵜呑みにせず、信頼できる根拠や実務的な裏付けを求めるようになります。だからこそW字モデルは古くならず、人の判断プロセスに寄り添うモデルとして生き続けます。AI時代のマーケティングで本当に価値を生むのは、テクノロジーそのものではなく、こうした人間の意思決定構造を深く理解した情報提供なのです。